大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)38号 判決 1992年10月23日

第一 控訴人

一 甲乙事件の控訴人

小川嘉吉

島村良助

石井武

萩原進

(亡大木よねこと小泉よね訴訟承継人)

小泉英政

小泉美代

北原鉱治

宮本幸江

(亡木内武訴訟承継人)

木内とく

木内順

秋葉哲

(亡柳川茂訴訟承継人)

柳川初枝

柳川秀夫

柳川克夫

柳川信子

小川源

小川七郎

熱田一

岩沢吉井

市東東市

加藤俊宣

小川喜平

加藤清

(亡戸村一作訴訟承継人)

戸村澄江

戸村和代

島寛征

二 甲事件の控訴人

梅澤勘一

萩原作治

笹川英祐

田下幸

高橋武治

石井安一

堀越昭平

萩原勇一

高仲松男

(亡小川明治訴訟承継人)

小川直克

加瀬三好

藁科啓次

三 乙事件の控訴人

三浦五郎

(亡小川得子訴訟承継人)

小川直克

四 補助参加人(亡戸村一作訴訟承継人戸村澄江、同戸村和代両名補助参加人)

戸村勝二

五 訴訟代理人

控訴人小川嘉吉、小川喜平、加藤俊宣、島村良助、高仲松男を除く控訴人ら及び補助参加人訴訟代理人弁護士

葉山岳夫

一瀬敬一郎

控訴人ら全員及び補助参加人訴訟代理人弁護士

森谷和馬

前田裕司

井上智治

深澤信夫

第二 被控訴人

建設大臣

山崎拓

右指定代理人

小磯武男

外五名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  (甲事件の控訴人ら)

被控訴人が昭和四四年一二月一六日付け建設省告示第三八六五号をもって告示した起業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港建設事業についての事業認定処分を取り消す。

3  (乙事件の控訴人ら)

被控訴人が昭和四五年一二月二八日付け建設省告示第一八二四号をもって告示した起業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港第一期建設事業についての特定公共事業の認定処分を取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりである。なお、関係者その他の略称は原判決の例による。

(原判決の訂正)

1  原判決一八枚目裏一行目の「おり、」を「いる。」に改め、同行の「また、」から二行目の終りまでを削除する。

2  同一一〇枚目裏一行目の「パンプライン」を「パイプライン」に改める。

3  同一八二枚目表四行目の「臨界」を「臨海」に改める。

(控訴人らの当審主張の要旨)

一  原告適格について

行訴法九条にいう法律上の利益について、仮に原判決のように法律上保護さた利益説を採用するとしても、原告適格を起業地内の土地所有者及び関係人に限定すべきではない。

すなわち、収用法二〇条三号の要件に照らして考察すると、収用法は、事業の遂行利益と起業地内の財産の保護との調整のみを目的としているものではなく、事業の遂行利益と起業地及びその付近一帯の土地の公共的、私的利益との調整を目的としていると解すべきであり、また、収用法二三条以下の規定を通覧すると、起業地内の土地所有者等関係人にとどまらず、起業地外であっても、事業の遂行によってさまざまの利益・不利益を受ける住民をも対象にして、事業認定に関する手続に参与させ、又は認定後の裁決の手続にも参与させる趣旨が認められる。

したがって、起業地外の住民等であっても、航空機騒音その他の被害を受けるものは、本件各処分につき取消しを求める法律上の利益を有する。

二  本件各処分の違憲性について

仮に収用法、特措法の規定が、憲法に違反しないとしても、農地所有権は単なる財産権とみるべきではなく、農業従事者にとって生存権、生活権、人格権の基盤をなすものであって、生存権的財産権とみるべきであり、単なる補償によっては回復の不能なものである。したがって、本件事業のために控訴人らの農地に収用法を適用し、これを強制的に収用することは、控訴人らの生存権、生活権、人格権を根底から侵害するものであり、本件各処分は、憲法一三条、二五条、二九条に違反する。

三  収用法二〇条三号要件の欠如について(原審主張の違法事由四(原判決二六枚目表一行目以下)の補足)

1 農業地の潰廃

本件事業認定処分は、農業適地である控訴人らの農地、農村を潰廃してしまうものであり、憲法二五条、二九条に違反するものであるから、収用法二〇条三号の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」の要件に反しており、違法である。

(一) 前例のない広大な土地強奪

本件において事業認定の対象となったのは、①空港敷地一〇六五ヘクタールであるが、空港の建設によって、農民が取り上げられる土地には、そのほか、②空港保安施設の用地一一三ヘクタール、及び③航空機騒音によって潰廃される土地(六六三〇ヘクタールに及ぶ。)も含まれるものであり、これらを合計すると、その面積は七八〇八ヘクタール、農家戸数は四七一〇戸にも及ぶ。

そして、土地の任意買収も、実際には強制収用を背景に行われるものであって、農民は実際上これを争う余地がないのであるから、これらを含め土地の強奪であるというべきである。

(二) 代替性のない農業適地の侵害

農地は農民にとって生存権を確保するために欠かせないものであるから、生存権的財産権というべきものである。農地の収用については、このような観点を無視してはならない。

そして、本件起業地内の農地は、控訴人ら農民が二世代以上にわたる労働により開墾した結果農業最適地となったものであり、農民の身体の一部ともいえるものであって、他の土地や補償金では代替できないものである。

(三) 地元住民対策の欠如

政府・千葉県は、一応地元住民対策を立てて実行したが、貴重な農地を失う農民にとってはその損失を補填するに足りるものではなく、この点からしても、三号要件を欠くものである。

すなわち、代替として提案された農地は面積も小さく、地味も悪く、農業が維持できるような土地ではなかった。このため、専業農家として経営を維持することを諦めた者も多く、補償金で新たに慣れない商売を始めた者もいたが、失敗した者が多かった。

(四) シルクコンビナート計画の一方的中止

シルクコンビナート計画とは、昭和三九年に農林省から第二次農業改善事業の指定を受けた成田市遠山地区を中心とする大規模協業養蚕団地計画のことである。

シルクコンビナート計画は、約一〇〇〇ヘクタールの集団桑園を作り、大型機械化によりコストの安い桑葉を確保するとともに、同地区内に蚕、繭、絹の生産工場を設置し、養蚕業の一貫生産体制を形成する大規模協業事業である。これは、千葉県農林部の行政指導の下、製糸関連企業も加わって立案されたものであるが、昭和三九年には農林省の認可もおり、実施された。当初消極的であった地区の農民もその意義を知って積極的に参加するようになった。

そして、計画は着々と実施されていったところ、昭和四一年六月、突然、国の意向により地元への説明もなく、新空港の位置が富里から三里塚に変更された。このため、シルクコンビナート事業は、空港建設のために、計画の当事者である農民たちには何らの説明も了解もなく、一方的に中止された。

この中止によって、計画に参加した農民の受けた打撃は計り知れないほどに大きい。右中止に至る行政の責任、ことに当時の千葉県知事友納武人の責任は甚大でる。

(五) 騒音対策の欠如

原審で述べたとおり(原判決三六枚目裏九行目から三七枚目裏六行目まで。なお、同六三枚目裏一行目から同裏終りまで)、本件各処分時において、航空機による騒音被害は明らかであり、騒音対策といえるものはなかった。騒音防止法には、民家防音工事すら規定がなかったのである。そして、その後現在までの本件空港周辺地域における航空機騒音は極めて甚大なものがあり、政府の騒音対策は今日に至るも住民の損失を補填するに足りるものにはなっていない。環境基準に違反する騒音が現在も生じているし、基準達成の見通しもたっていない。

2 最適地の原則違反

この点に関する控訴人らの主張は、原判決事実摘示(原判決三〇枚目裏七行目以下)のとおりである。

事業認定をなすに当たって、当該事業に最適の土地を具体的事案に即して判断しなければならないことは、憲法二九条の趣旨から要請されているところであり、収用法二〇条三号の要件に含まれていると解すべきである。

3 新空港の位置決定手続の適正手続違反

憲法一三条、三一条は、国民に重大な不利益処分を課す場合、最小限度、事前の告知、弁明若しくは聴聞、及び具体的理由開示等の手続が行われることを要求している。

ところで、新空港の位置が富里から三里塚に変更されたのは、当時の運輸事務次官と千葉県知事との間で秘密裡に協議されたものであるが、どちらから提案されたか等について両者の間で認識を異にしており、このことは、新空港の位置決定が、住民不在の中で行われたことを示している。そして、富里案以来、地元住民への事前の説明、意見の聴取は全く行われず、住民は反対意見表明の機会すら奪われたまま、しゃにむに建設作業が進められた。

このように、新空港の位置決定の段階で、前記のような適正な手続が踏まれなかったことは、憲法一三条、三一条に違反するものであり、そのような憲法違反の空港建設事業を前提とする本件事業認定は、収用法二〇条三号の要件が欠如しており、違法・違憲である。

四  本件第二期工事区域における事業認定の失効について(原審主張の違法事由八(原判決九三枚目裏九行目以下)の補足)

本件第二期工事区域については、(1)収用裁決請求権の時効消滅、(2)買受権の不成立に伴う収用裁決請求権の失効、若しくは(3)事業認定後四年以内に権利取得裁決がないことにより、事業認定処分が失効した。

そして、重要不可分な本件第二期工事区域について事業認定処分が失効したのであるから、本件事業認定処分は、全体として取り消されなければならない。

1 収用裁決請求権の時効消滅

(一) 収用法三九条一項は、起業者が収用委員会に対し収用裁決の申請をすることができる旨を定めているが、この申請権能を収用裁決請求権ということができる。

右収用裁決請求権は、一種の債権であるが、仮に民法一六七条一項の債権に当たらないとしても同条二項の財産権に当たるから、一〇年又は二〇年の消滅時効にかかる。

(二) 公団は、第二期工事区域について、次のとおり収用裁決の申請をした。

(1) 昭和四五年六月三〇日付けによる第三次申請

(2) 同年一一月三〇日付けによる第五次申請

(3) 同年一二月一五日付けによる第六次申請

右申請は、民法一四九条の裁判上の請求には該当しないので、右各収用裁決請求権は、右の各申請のときから一〇年又は二〇年の経過によって時効消滅した。

2 除斥期間経過による買受権の不成立に伴う収用裁決請求権の失効

(一) 公法上の権利は、権利者が長期間権利を行使しない場合において、特別の事情があるときは、権利の喪失を来し、もはやこれを行使できなくなるものと解すべきである。

本件についてみるに、公団は、前記のとおり昭和四五年中に第六次までの収用裁決を申請した後は、収用委員会に対し法的手続をとることなく、漫然年月を過ごしてきた。その結果、(二)に検討するように、第二期工事区域内の土地所有者は、収用法が憲法の要請を受けて定めた買受権すら喪失するに至ったものである。

このような場合には、第二期工事区域については、公団の収用裁決請求権は失効により消滅し、千葉県収用委員会も収用裁決権限を喪失したものである。

(二) 除斥期間経過による買受権の不成立

収用法一〇六条一項は、事業認定の告示の日から二〇年以内に収用した土地が不用となったとき、又は一〇年を経過しても土地の全部を事業の用に供しなかったときは、土地を収用された旧所有者は、起業者が支払った補償金に相当する金額を提供して当該土地を買い受けることができるものとしている。そして、事業認定の告示の日から二〇年までが買受可能期間であり、右期間は除斥期間と解されている。

ところで、本件起業地のうち、第二期工事区域については、公団は、事業認定後二〇年を経過した現在、いまだ土地を収用していないのであるから、土地所有者の買受権は成立しないが、除斥期間が経過したことにより買受権は絶対に成立しないことが確定した。憲法二九条の下において、買受権なき土地収用はあり得ない。

3 告示後四年内に権利取得裁決がないことによる事業認定処分の失効

この点については、原審において本件各処分の違法事由八(原判決九三枚目裏九行目以下)として主張したとおりであるが、なお、次の点を補足する。

収用法は、迅速性を本質的要請としており、この点にかんがみると、事業認定告示後四年内に権利取得裁決がされないことはあり得べからざることであり、公団が権利取得裁決と同時に明渡裁決を申請していた場合であっても、事業認定処分は失効するものと解すべきである。これと異なる被控訴人の主張は、収用委員会と起業者の密接な関係に目をつぶるものであって、不当である。

(被控訴人の反論)

控訴人らの主張は、全面的に争う。

行政処分の取消訴訟において、処分後の後発的事由は取消事由となる余地はない。したがって、本件第二期工事区域内における本件事業認定の失効をいう控訴人らの主張は、主張自体失当である。

第三 証拠関係<省略>

理由

第一当裁判所は、原審及び当審における双方の主張・立証を検討したが、控訴人らのうち原判決別紙目録(一)(二)記載の控訴人らの訴えは不適法であり、また、本件各処分に違法、違憲の点はないと判断する。

その理由は、原判決の説示を次のとおり補正し、控訴人らの当審における主張に対する判断を第二以下に加えるほか、原判決理由説示のとおりである。

(原判決の補正)

1  原判決二七二枚目裏四行目の「認められるが」の次に「(乙六五号証によると、昭和五三年度から昭和六二年度までの間に、本件空港において航空機が濃霧等のために着陸出来なかった日は、年間十数日であると認められる。)」を加える。

2  同二七四枚目表二、三行目の証拠に乙六六号証の二を加える。

3  同二七八枚目表五行目の「西側」を「両側」に改める。

4  同二九一枚目表二行目の「航空燃料供給体制」を「航空燃料供給態勢」に改める。

5  同二九八枚目表八行目の「いうべきである」の次に「(甲二一八号証の一、乙六九号証の二によって認められる昭和三八年から昭和四六年までの国際線の座席利用率に照らしても、前記予測が殊更低い座席利用率を前提としたものでないことが認められる。)」を加える。

6  同三〇八枚目表六行目の「含むことに」を「含むことは」に改める。

第二原告適格について

控訴人らは、行訴法九条の法律上の利益について、起業地外の土地の住民等で、事業の結果航空機騒音等の被害ないし不利益を被る者も、収用法によって保護された法律上の利益を有する者に当たると主張する。

しかし、収用法の趣旨、手続等に関する規定を総合的に検討しても、収用法二〇条三号の要件の定めが、起業地内の土地所有者及び関係人の受ける財産的利益のほかに、右主張のような付近住民の利益をも個別的、具体的に保護する趣旨であると解することは困難である。

収用法が、公聴会の開催(二三条)、事業認定書等の公衆に対する縦覧(二四条)、利害関係人の意見書の提出(二五条)等の規定をもうけているのは、事業認定の要件に関する行政庁の判断をできるだけ公正妥当なものにするために、利害関係人その他一般の意見を参考にさせようとするにあると解されるのであって、個々の利害関係人の利益を個別的に保護し、又は救済することを目的とするものではないと解されるから、これらの規定を根拠に右付近住民の法的利益を肯定することはできない。

控訴人らの主張は採用できない。

第三本件各処分の違憲性の主張について

控訴人らは、本件各処分が憲法一三条、二五条、二九条に違反すると主張するが、本件各処分の根拠となった収用法、特措法の規定が憲法に違反するものとはいえず(なお、収用法七一条、特措法二〇条、二一条、三八条の二ないし三八条の四の各規定が憲法に違反しないことは、原審(原判決二三五枚目裏一〇行目から二四〇枚目終わりまで)の説示するとおりである。)、また、農業従事者にとって生活の基盤となる農地に収用法、特措法を適用して、これを強制的に収用することが、直ちにその生存権、生活権、財産権を不当に侵害するものであって、憲法の前記規定に反するものとは考えられない。

第四収用法二〇条三号要件の欠如の主張について

一収用法二〇条三号は、事業認定の要件の一として「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。」を掲げているところ、右要件は、土地がその事業の用に供されることによって得られる公共の利益と、これにより失われる公共的又は私的利益を比較衡量し、前者が後者に優越すると認められる場合に存在するものと解すべきこと、及び右の判断に当たっては、事業計画の内容、事業計画の達成によってもたらされるべき公共の利益、当該土地の状況等の諸要素を総合判断すべきものであることは、原審説示(原判決二五四枚目表一〇行目から二五五枚目表六行目まで)のとおりである。

控訴人は、本件事業認定が右要件を欠く事由について、当審で主張を補足するので、以下、これらについて検討する。

二農業用地の潰廃等の主張について

1  本件事業により失われる土地の範囲について

(一) 控訴人らは、事業認定の対象となった起業地(空港敷地)のみならず、保安施設用地、航空機騒音の被害を受ける土地も実質的には収用・使用されるのと同一の効果を受けるものであるから、事業により失われる利益を考慮するについては、これらの土地全部を含めて考察すべきであると主張する。

(二) 争いのない事実、証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認められる。

(1) 空港敷地 約一〇六五ヘクタール

右土地は本件起業地として本件事業認定の対象となったものである。もっとも、そのうち民有地は約六七〇ヘクタールであり、対象となる家屋は約三二五戸である。

(2) 航空保安施設(アプローチエリア)の対象となる土地

右土地は約一一三ヘクタール、対象となる家屋は六一戸とみられる。

これらの土地については、公団は、任意買収により土地を取得する計画で、本件事業認定の対象としなかった。そして、原審認定のように、その一部が任意買収できなかったため、四〇〇〇メートルとして予定されたA滑走路を当面三二〇〇メートルとし、その余をアプローチエリアとして使用している。

(3) 騒音地域

昭和四三年一〇月一一日開催の臨時新東京国際空港閣僚協議会で、滑走路末端から滑走路延長方向に二キロメートル、滑走路中心線から両側に各六〇〇メートルの範囲を騒音区域とし、この区域内の土地については、買取り希望のある者から空港敷地と同一価格で買収を行う旨決定した。その広さは、約八三〇ヘクタール、対象となる家屋は三七五戸である。

昭和四二年に騒音防止法が制定され、同法は、第一種区域(WECPNL(航空機の離陸、着陸に伴う騒音の影響度をその騒音の程度、発生の回数及び時刻等を考慮して定めたもの。うるささ指数ともいう。)七五以上)、第二種区域(同九〇以上)、第三種区域(同九五以上)を設け、第二種区域内に所在する土地の所有者が土地の買入れを申し出たときは、予算の範囲内でこれを買い入れることができるものとしている。そして、本件空港における第二種区域の面積は約一五〇〇ヘクタールであり、同区域内の戸数は約五五〇戸である(この点は、当事者間に争いがない。)。

さらに、昭和五三年に特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法(以下「特定空港騒音対策法」という。)が制定施行されたが、同法は、本件空港の周辺に航空機騒音障害防止地区(WECPNL七五以上)及び航空機騒音障害防止特別地区(同八〇以上)をそれぞれ定めることができ、前者の地区内に住宅等の建物を建築するには防音上有効な構造とすべき旨、後者の地区内には住宅等の建物を建築してはならない旨を定めるとともに、空港の設置者がこれに伴う損失を補償すべきものとしている。もっとも、本件空港について、現時点で右各地区の指定は行われていない。

(三) 控訴人は、本件事業認定により、(1)の本件起業地のみならず、右のすべての土地が強制的に奪われるものであるとして、これと本件事業によって得られる公共の利益とを対比すべきであると主張する。

しかし、右(2)の航空保安施設用地は、当初から任意買収による取得が予定され、これによって任意買収が行われたものであるから、その範囲が広汎で対象農家戸数が少なくなかったとしても、これを収用と同視して、右の比較衡量を行うべきであるとするのは、根拠がない。また、(3)の騒音区域について騒音被害あるいはそれに関連する不利益が生じることは、これに対して講じられる騒音対策の内容等とともに、右の比較衡量に当たって当然考慮すべき事柄であるが、そのことから、騒音地域までが収用対象地に含まれるかのようにいうのは当たらない。

2  農地所有権の侵害について

(一) 控訴人らは、農地は農民にとって生存権を確保するために欠かせないものであり、かつ、本件起業地内及び周辺の農地は、控訴人らが二世代又はそれ以上にわたって開墾して農業適地としたものであるから、他の土地では代替できないものであると主張する。

(二) 証拠(原告戸村一作、控訴人萩原進、同小川嘉吉の各供述)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 本件起業地一帯は、千葉県北総台地のいわば尾根(標高四〇メートル)に当たる地域で、水田は少ないが、関東ローム層とよばれる土壤で覆われた畑作地帯である。

本件起業地内には、古くからの集落である駒井野、取香、明治期に開拓された十余三、横堀、大正期に開拓された天神峰、戦後に開拓された東峰、木の根、古込、天浪の各集落があり、前記のとおり起業地内の住民の戸数(ほとんどが農家)は総計約三二五戸、民有地(ほとんどが農地)の面積は約六七〇ヘクタールである。

(2) これらの農地は、いずれももと竹林や松林、あるいは御料牧場の縮小に伴い解放された牧場地であったところを、入植者が二世代あるいはそれ以上にわたって開墾して農地としてきたものである。これら入植者は、開墾のための機械のない時代に多大の労力を投入して開墾し、土壤に改良を加えて比較的肥沃な農地としたものであり、開墾が進むに従って集落も形成され、都市近郊型の野菜等を中心とした作物を作り、次第に安定した経営を築くようになってきた。

(3) しかるところ、本件空港建設により、本件起業地内では農業の継続を断念せざるを得なくなった。

(三) 以上の認定によると、本件起業地一帯は、控訴人ら農民が多くの労苦を重ねて農業適地としたものであり、控訴人らが生存の基盤としてきた土地であることは、明らかである。

しかしながら、高度の公共目的のためにする収用との関係において、他の土地や補償金によっては絶対に代替することができない土地であるとまでいうことは無理といわざるをえず、原審認定及び後述するように、これを収用の対象とすることの許否は、補償及び代替地提供等の措置をも考慮に入れて判断することになる。

3  地元住民対策の欠如について

(一) 控訴人らは、政府及び千葉県の実施した地元住民対策は、実際には非常に不十分なものであったと主張する。

(二) 地元住民対策の内容等については、原審認定(現判決二七五枚目表一〇行目から二七六枚目裏九行目まで)のとおりであり、右事実と証拠(<書証番号略>、証人友納武人の証言)によると、次の事実が認められる。

営農希望者に対する代替地は、原則として同一市町村内又は隣接市町村内に用意することとし、代替地への移転は部落単位で集団的に行えるよう配慮するものとし、移転農民から希望がある場合には、長期、低利の営農資金を融資し、また営農指導等を行うものとした。

代替地の配分に際しては、成田市内及び空港近隣の代替地を希望した者が多かったこともあって、右の地区を希望した者に対しては、空港用地の提供面積に従って二町歩以上の提供者に対し七反五畝、二町歩未満五反歩以上の提供者に対し五反、五反歩未満三反歩以上の提供者に対し二反五畝、三反歩未満の提供者に対し七畝を配分することとし、その他の地区の希望者に対しては、おおむね従来の経営規模に見合う面積を限度として配分することとした。

そして、これらの対策が実施された。

(三) もっとも、証拠(原告戸村一作、控訴人萩原進の各供述)及び弁論の全趣旨によると、右のようにして代替地の配分が行われたが、必ずしも従来の部落が一体となって代替地に移転したわけではなかったので、農業に不可欠な共同作業ができなくなるなどの事情も生じたところがあること、代替地の提供を受けた者の中には、十分な営農をするには面積が十分でなかったり土壌が必ずしもよくなかったりしたことなどから、専業農家をめざしたものの結局はこれを断念して兼業農家となった者や代替地の開墾に予想以上の労苦を余儀なくされた者などがあること、また、補償金の支払を受けた者の中には、これを資本に新しい営業を始めたが、経験がないことなどから成功しなかった者もおり、一部には補償金を遊興の資に当てて浪費してしまった者もあることがうかがえる。

(四) たしかに、代替地や補償金を受けたからといって、直ちに従来と同様の農業経営を続け、あるいは容易に転業することができるわけではなく、新たに相当の労苦を強いられるものと考えられるが、前記の原審認定及び右事実関係からすると、政府・県・公団は、農地を失う地元住民に配慮して、それなりの地元住民対策を立てて実施したものということができる。

4  シルクコンビナート計画の一方的中止について

(一) 控訴人らは、本件起業地について当時シルクコンビナート計画が実施されていたところ、本件空港建設のために同計画が一方的に中止され、これに参加した農民は大きな打撃を受けたことを指摘するので、検討する。

(二) 証拠(<書証番号略>、証人友納武人の証言、控訴人萩原進の供述)によると、次の事実が認められる。

(1) シルクコンビナート計画は、昭和三九年以降成田市遠山地区を中心とする地域で行われた大規模協業養蚕団地造成計画のことであり、シルクコンビナート計画は、その通称である。同計画は、同地区の本件起業地付近に、約一〇〇〇ヘクタールの集団桑園を造り、大型機械化によりコストの低い桑葉を確保するとともに、同地区内に蚕、繭、絹の生産工場を設置し、養蚕業の一貫生産体制を形成する大型協業事業を指すものであり、農林省から第二次農業改善事業として認められたものである。

(2) 本件起業地付近は、比較的地味も豊かな農業適地であったものの、水利に恵まれず水田には適しなかったため、安定した作物が少ないとの面もあった。そこで、本件起業地付近の農業経営の安定的発展を図るために、千葉県農産課がシルクコンビナート計画を発案し、成田市農政課、生糸会社、地元農業協同組合が協力して推進したものであり、養蚕とはいっても、従前の小規模な個人経営とは発想を異にし、前記のように大規模で近代的な協業団地を造成しようとするものであった。

昭和三九年、前記四者が中心となって、地元農民を説得し、昭和四〇年三月には一部の桑の植付けを開始し、同年八月には成田市養蚕協業組合が設立され、同年秋に三〇ヘクタールの桑園を造成することにより、シルクコンビナートが発足した。その後稚蚕所、壮蚕所も建設され、昭和四一年五月に初めて組合員による蚕の飼育が行われて収繭があり、同年六月二一日にはかねて申請していた農業構造改善事業につき、農政局から承認する予定である旨の通知があった。

しかるところ、後記のとおり、同年六月二二日の佐藤・友納会談において、新東京国際空港を成田市三里塚に建設することにつき基本的合意がなされ、これを受けて、同月二四日、千葉県から成田市養蚕協業組合に対し、シルクコンビナート計画中止の指令が入った。

(3) 地元農民は、当初は必ずしもシルクコンビナート計画に積極的ではなかったが、県の説得あるいは指導もあって、次第に乗り気になり、これに参加するものが増えていった。このような状況のときに急遽中止決定がされたので、地元民殊に青年層には、強い不満を表明する者も生じた。

控訴人萩原進は、将来の農業経営について模索していたこともあって同計画に積極的に加わることとし、他県での研修にも積極的に参加したが、急な中止を知って驚いて憤慨し、知事に面会を求めて事情を確かめようとしたりした。同控訴人は、県あるいは国の指導でシルクコンビナート計画を推し進めながら、一転して今度は国が空港を設置するからといって計画を中止するのは、あまりに一方的であり、農民を無視するものであるとして、これを契機に空港設置反対の運動に加わるようになった。

(4) シルクコンビナート計画の中止決定後、成田市養蚕協業組合は解散し、対策委員会が結成されて、補償問題の検討に入った。昭和四一年八月には県の責任において農業協同組合連合会から借入れをすることにより暫定的な補償が行われ、次いで、県は昭和四二年一二月に公団に補償の要望書を提出し、公団も運輸省の指示を仰いで検討した結果、昭和四三年一〇月一八日、公団と成田市養蚕協同組合との間で補償について合意がなされ、実行された。

(三) 以上に認定したように、シルクコンビナート計画が本件起業地付近の新たな農業構造改善事業として打ち出され、地元農民がこれに期待をかけて力を入れ始め、順調に滑り出した矢先に、本件事業のために突然中止となり、参加した農民は経済的にも精神的にも相当の打撃を受けたものであるが、県や公団も、右計画の経過を踏まえ、その補償問題の解決に尽力したといえる。

5  騒音対策の欠如について

(一) 控訴人らは、政府、公団のとった騒音対策は著しく不十分なものであって、本件空港のもたらした騒音被害を考慮すると、本件事業により失われる利益は多大であると主張する。

(二) 証拠(証人手塚良成、同長井弘之、同丸居幹一、同若狭得治の各証言)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

本件空港の計画に関し、政府及び運輸省当局は、常に騒音問題を考慮しながら計画を策定し、航空管制の関係で内陸部を選ばざるをえない状況の下において、東京周辺で比較的人口密度の低い地域として当初富里地区を、次いで騒音問題も含め被害のはるかに小さい本件地区を選んだものであり、本件地区に関しても、人口稠密な成田市街及び三里塚の集落を避け、御料牧場及び県有地を含む地域に起業地を設定したものであるが、騒音について環境調査や住民に対する事前調査を行うことはなかった。また、本件空港の位置決定に当たり、あるいは本件各処分時までには、本件空港周辺の予測騒音図(騒音コンター)も作成されていなかった。

政府の行った騒音対策及びその後の騒音の状況については、原審認定(原判決二七七枚目裏一行目から二八〇枚目裏四行目まで)のとおりである。

(三) ところで、証拠(<書証番号略>)によると、次の事実が認められる。

(1) 本件空港は、昭和五三年五月二〇日に開港した。

本件空港の運行時間は、午前六時から午後一一時までであり、発着回数は、開港当初の昭和五三年には一日一五四便であったが、平成四年三月段階では一日三六〇便に増加している。

本件空港を使用する航空機は国際線の長距離便であるため、そのほとんどが離着陸に際し大きな騒音を発するジェット機であり、ジャンボ機である。

(2) 前記の騒音対策は、開港後も引き続き実施されているが、その状況は次のとおりである。

ア 監視測定

(3)でみるように、県は毎年夏季及び冬季に騒音調査を行うほか、常時監視のために固定測定局を設置した。

イ 発生源対策

航空機材の改良、空港の運行時間の規制、離着陸における騒音軽減運行方式の推進等が行われてきた。

ウ 周辺騒音対策

公団が実施したものとして、①学校、保育所等の防音工事、②住宅の防音工事、③住民の集会等のための共同利用施設の整備、④住宅の移転及び土地の買入れ、⑤防音堤、防音林等の整備、⑥電話機の難聴対策、⑦テレビの受信障害の除去がある。

県が実施したものとして、①住宅防音改築工事資金の利子補給、②共同利用施設の設計、監督料の補助、③通勤農業者への補助、④住宅防音工事事業の補助及び改築工事資金の利子補給、⑤騒音の障害防止に配慮した土地利用計画の策定がある。

(3) 空港周辺環境調査会(代表・前芝山町議会議員鈴木幸司)が平成元年に行った住民アンケート調査によると、回答者七三三名のうち、開港当初より騒々しくなったと答えた者が三七一名(50.6パーセント)、静かになったと答えた者が五七名(7.8パーセント)、変わりないと答えた者が二四四名(33.2パーセント)となっている。

千葉県環境部は、毎年夏と冬に一週間ずつ航空機騒音の測定調査を行っており、昭和六三年の調査結果によると、本件空港の周辺南北三五キロメートル、東西六キロメートルの範囲の五七か所の調査地点の状況は次のとおりとなっている。すなわち、最高騒音値が一〇〇ホンを超える地点が三か所、九九ないし九五ホンの地点が七か所、九四ないし九〇ホンの地点が一四か所、八九ないし八五ホンの地点が二一か所、八四ないし八〇ホンの地点が九か所、七九ないし七五ホンの地点が三か所であり、七四ホン以下の地点はない。

また、測定期間中のWECPNLについてみると、WECPNL八五を超える地点が三か所、八四ないし八〇の地点が七か所、七九ないし七五の地点が九か所、七四ないし七〇の地点が一七か所、六九ないし六五の地点が一四か所、六四以下の地点が七か所となっている。右時点では、本件告示の定めた航空機騒音の環境基準値はいまだ達成されていない。

(4) そして、前記住民アンケート調査結果によると、本件空港周辺の住民は、①屋内での会話、電話、田畑での会話を大声でせざるをえない、テレビを大きくしなければ聞き取れない、等の聴取自体の被害を訴えているほか、②読書、思考、睡眠等への影響、③耳鳴、耳痛、頭痛、食欲減退等の身体への影響、④精神的影響、⑤子供の勉強に対する影響等を訴えている。

(四) 以上によってみると、本件空港の位置決定に当たり、内陸空港であることから必然的に生ずる騒音問題について、政府・運輸省・公団が事前に十分周到な検討を尽くし対策を立てたとは必ずしもいいがたいし、今日においてもなお騒音被害に悩まされている地区があることは否定できない。しかし、本件事業認定の当時においては、相当程度の水準の各種の騒音対策が打ち出され、遂次これが実行されつつあったものといえるのであり、ことがらの性質上万全を期することはできないとしても、これらの騒音対策が一定の成果を挙げるのを期待することができない状況であったとは認められない。

6  まとめ

以上に検討したところを総合すると、本件事業は、控訴人ら農民が長年労苦を費やして開墾した農業適地を失わせ、また、本件起業地周辺の発展のために着手されたシルクコンビナート計画を、その緒についた段階で中止させる結果となったものであって、控訴人ら地元住民及び地域に与える痛手は決して少ないものでなかったこと、そのうえ、内陸空港であることから必然的に周辺に騒音被害を及ぼすものであるところ、これに対する対策が万全とはいいがたい状況にあったことが認められ、また、これをその後の推移に照らしてみるとき、前記認定のように、農地を買収されて生活に変化を来し、苦労している者もあるし、各種の騒音対策にもかかわらず、なお相当の騒音被害が生じていると認められるのであって、本件事業によって被る地元住民らの不利益は大きいということができる。

しかしながら、他面、原審が詳細に認定している諸般の事情の下で我が国の代表的国際空港を建設する本件事業の必要性及び本件事業により実現される公共の利益は、原審認定のとおり甚だ大きいものがあることは明らかである(この点は、処分時においてそうであるばかりでなく、現状においていっそう顕著である。)。そして、原審が認定し、次項にも補足するとおり、本件起業地はこれに適した土地であり、本件事業計画の内容に特段の不適切なところは見いだしがたく、また、当時検討された他の候補地はいずれも難点があったものである。

こうしてみると、本件起業地が本件事業の用に供されることにより控訴人ら地元の被る不利益と本件事業により実現される公共の利益とを単純に比較することは必ずしも適当ではないが、控訴人らの被る右不利益が諸般の施策によって補填、緩和されうるものであり、かつ、そうした施策の実行が不可能でないことを前提として、本件事業計画の内容、事業計画の達成によりもたらされる公共の利益及び本件起業地の状況等の諸要素を総合して考えるならば、後者が前者に優り、本件事業が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるとした被控訴人の判断に誤りがあったとはいいがたく、本件事業認定が収用法二〇条三号に反するものとすることはできないというべきである。

三最適地原則違反の主張について

1  収用法二〇条三号の要件として、控訴人らの主張する最適地の原則を採り得ないこと、及び本件各処分時までに提示された羽田空港拡張案と東京湾中北部案が本件事業計画よりも著しく優れていて、被控訴人の裁量判断を不合理ならしめるものであったとは認めがたいことについては、当裁判所も、原審説示(源判決二五五枚目表七行目から二五七枚目裏二行目まで及び二八〇枚目裏一〇行目から二八八枚目裏七行目まで)のとおり判断する。

2  以下、羽田空港拡張案について若干補足する。

(一) 控訴人らは、運輸省及び被控訴人は、東京湾の航路の問題について港湾担当部局と協議・調整をしていないなどと非難するが、証人丸居幹一の証言によると、運輸省では航路の問題について海上保安庁の意見を聴取し、また、埋立てに関する建設技術の点についても、技術進歩の可能性を考慮して、運輸省港湾局長の意見を聞き、いずれもなお難点があると判断したものであることが認められる。

(二) 控訴人らは、本件各処分後、現に羽田空港沖合拡張が進展していると指摘する。右は、処分後の結果論をいうものではあるが、検討する。

(1) 証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

運輸省は、昭和四二年段階で、羽田空港のC滑走路に平行に東京湾を埋め立てて、新A滑走路を建設する計画をもっていた。

また、昭和四七年三月、運輸省航空局の東京国際空港拡張計画作成委員会は、同空港拡張計画報告書を作成し、その後、東京都から騒音問題を生じないように沖合へ移転の要請がなされ、これをうけて東京都、大田区、品川区との協議を重ねながら検討した結果、昭和五八年二月二三日、東京国際空港拡張整備基本計画が正式に決定され、昭和五九年一月二六日、右計画に基づく工事が着工されるに至った。

この計画は、羽田空港が国内航空交通の拠点として重要であり、本件空港の開港により国際線を扱わなくなったことから一時的に若干の余裕ができたものの、その後の増便などにより、昭和五八年当時で年間の離着陸回数が一六万回に及び、二二〇〇万人の利用者があり、再び処理能力の限界にきている状況を踏まえ、将来を含めたその解決のために策定されたものである。

右計画によると、東京都の廃棄物埋立地などを利用して、現在の羽田空港を沖合に拡張移転することにより(現在の空港面積四〇八ヘクタールを約一一〇〇ヘクタールに拡張する。)、新A(三〇〇〇メートル)、新B(二五〇〇メートル)、新C(三〇〇〇メートル)の三本の滑走路を設けるものとされ、これらが完成すると、年間の離着陸能力が現在の1.5倍の約二三ないし二四万回になるものとされている。

(2) 右のとおり、羽田空港の拡張が進行しているが、右の拡張計画は、前記のとおり、国際線が本件空港に移転した後の国内線の離着陸能力が限界にきていることを踏まえ、将来の航空需要に対処することを目的としたものである。したがって、右計画が完成しても、将来にわたる国際線の需要予測にまで対応することができないことにおいては従前と変わりがない。

また、本件事業認定処分時に問題があるとされた、東京港の船舶の航行の問題及び埋立て技術・経済性の問題は、右の拡張の限度においては現在では解決されたことになるが、これは、本件事業認定時までに提案された羽田空港拡張案に比し、現在の拡張計画が小規模であることなどによるものと考えられ、直ちに事業認定時の判断が誤りであったことを示すものではない。

3  控訴人らは、最適地の原則に関連して、本件事業認定が収用法二〇条三号の要件を充足するためには、本件空港が「新東京国際空港」たる要件を満たすものでなければならないと主張する。

しかし、収用法二〇条三号の要件として右主張のように解すべきかどうかはともかく、控訴人らが右主張において実質的に問題としている交通連絡手段、運行時間、燃料供給施設等の点については、原判決理由六(収用法二〇条、特措法七条の各三号要件について)の項において既に判断されているとおりである。

四本件空港の位置決定過程の適正手続違反の主張について

1  控訴人らは、新空港の位置決定について適正な手続が踏まれなかったので、本件事業認定は収用法二〇条三号の要件を欠く違法のものであると主張する。

2  本件空港の位置決定がされるに至った経緯については、原審認定(原判決二五八枚目表二行目から二六三枚目表六行目まで)のとおりである。

以下、富里案が関係閣僚協議会で内定された後の経緯について補足的に検討する。

原審の挙示する証拠に証拠(<書証番号略>、証人若狭得治、同友納武人の各証言)を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 富里案は、ほとんどが民有地を対象とするものであり、同地域には古くからの耕作面積も比較的多い富裕な農家が多かったこともあって、富里案については地元の反対が強かった。友納知事も、新空港建設の国家的事業としての公共性を十分認め、県として地元との仲介に努めたいと願いつつも、知事自身に対しても事前の連絡がなかったことや、地元住民の説得が困難との判断もあって、昭和四一年二月二八日には「県としては地元住民に対して説得の態度をとらず、自体の推移を静観注視する」との態度を表明するに至った。

(二) そこで、政府としても富里案に決定することができず、自由民主党政調会交通部会や運輸省内部でさらに検討した。この過程で、木更津沖案が再浮上したが、管制等の問題点が克服できないとして再び否定された。

そして、同年六月七日ころ、友納知事と衆参両院運輸委員長及び自民党政調会交通部会長との会談が行われ、自民党筋から代替の候補地に関し成田市三里塚地区が示唆された模様であり、千葉県はその直後ころその検討に着手したとされる。

六月一七日、自民党の川島副総裁は、友納知事を招いて、木更津沖案を不適当とする中村運輸大臣の報告を伝えるとともに、自民党政調会のあっせん案として、三里塚案の提案があった旨を伝えた。

また、以上のうごきの少し前ごろから、運輸省の若狭得治事務次官と千葉県の友納知事が数回にわたり非公式な会合を重ねて、新空港問題について検討し、三里塚案が対象になった。この会合において、いずれの側が先に三里塚案を提案したかについて、若狭事務次官と友納知事の証言がやや食い違っており、確定することはできないが、いずれにせよ、富里案に代替するものとして地元への影響を極力少なくすることができる点において、両者の意見が一致したもののようである。

これらの結果、三里塚は、空港建設地としての条件において富里と大差がない反面、国有地である御料牧場(約二四三ヘクタール)、県有地(約一五二ヘクタール)を利用することができ、かつ空港の規模を約二分の一の一〇六〇ヘクタールとすることにより、民有地の買収を極力少なく(約六七〇ヘクタール)することができるという見方が大勢になった。

そして、同年六月二二日、佐藤首相は友納知事を招いて空港問題について協議し、その際、知事は地元の意向を踏まえた四項目の要望をし、首相はこれを了承するとともに、正式に三里塚案を提示して協力を求めた。

同知事は、翌日の自民党県七役会に出席して、三里塚案を報告するとともに、協力の態度を明らかにし、翌二四日には自民党県国会議員団に報告し、三里塚案に協力することとなった。

同年七月四日の閣僚協議会において三里塚案が了承され、同日本件閣議決定がなされたが、本件閣議決定では空港の位置決定と同時に地元住民対策を発表した。そして、翌五日、位置政令が制定・公布された。

(三) 以上の三里塚案決定に至る過程において、政府は、前記のように、友納知事を通じて地元の意向を確認し、また、自民党の千葉県選出の国会議員らと接触して、これを通じて地元の情勢を把握していたが、住民を対象とした集会その他の方法により、事前に地元住民の意向を直接聴取する機会はなかった。

本件閣議決定後、友納知事は藤倉成田市長に対し事情を説明するとともに、協力を要請し、同年六月二五日、地元住民への新空港の説明会が成田市主催で行われたが、地元住民の反対意見が強く、会場が混乱したため、市長は一応の説明をしただけで退出するといった状況であった。また、その後同年中に、運輸省の担当者による現地説明会が地元各地で開かれた。

昭和四二年一月一〇日、本件空港の工事実施計画認可に関し、航空法に基づく公聴会が千葉県庁において開催され、公述人三六名(うち二九名は地元住民)が意見を述べたが、賛否は各一八名であった。

本件起業地内の住民の中には、空港設置に賛成する者や、補償その他の条件いかんによっては賛成を表明する者も少なくなく、これらの者は「空港建設協力会」、「地権者対策協議会」等を結成して協力し、相当程度の土地は任意買収によって取得されたが、これに反対する者は、反対同盟に加わって、今日に至るまで長年月にわたって反対闘争を繰り広げてきた。反対派住民は、その中で、本件空港の位置決定が地元に十分説明されず、地元の意向を聴取することなく行われたことをも不当としており、成田空港問題をとらえる世論、新聞等も、この点において妥当を欠いたと評するものが少なくない。

3 本件事業のように多くの地元住民に重大な影響を及ぼす巨大事業を決定するに当たっては、地元の知事を通じあるいは政党の支部や関係議員を通じて地元の意向を把握するだけでなく、できる限り地元住民に対し直接十分な説明をし、その意見を聴取して、地元住民の了解あるいは納得を得るように努めるのが妥当な措置であると考えられる。本件において、前記認定のシルクコンビナート計画中止の経過等をも考え合せると、この点の事前の配慮に欠ける所がなかったとはいいがたい。

しかしながら、航空法は、本件空港を設置するに当たり、運輸大臣が工事実施計画を認可するについて公聴会を開催して、利害関係人に空港設置に関する意見を述べる機会を与えるべきものと規定するにとどまり、右公聴会が開催されたことは前記認定のとおりであって、この規定以外には、本件空港の位置決定に際し、地元住民に対する事前の説明及び意見の聴取をすべきものとした規定はない。また、憲法の定める適正手続の保障が右の事前説明及び意見聴取までを不可欠のものとして要求しているとは解されない。したがって、これらの点が十分でなかったとしても、本件事業認定を違法・違憲とするには至らないといわざるを得ない。

第五事業認定の失効の主張について

一収用裁決請求権の時効消滅の主張について

控訴人らは、収用法三九条一項が起業者の収用委員会に対する裁決申請手続を定めていることから、起業者の収用裁決請求権なる権利を観念し、この請求権は一種の債権あるいは民法一六七条二項の財産権であるとして、裁決申請後一〇年あるいは二〇年の経過によって時効消滅すると主張する。

しかしながら、起業者が収用委員会に対して収用裁決を申請することのできる権利ないし権能は、収用法によって設けられた手続上の請求権であり、民法上の債権その他の財産権とはその性質を異にするものであって、民法一六七条一、二項の規定が適用されるものと解することはできない。また、本件において、起業者である公団は、第二期工事区域について、控訴人ら主張のとおり、昭和四五年六月三〇日付け第三次申請、同年一一月三〇日付け第五次申請、同年一二月一五日付け第六次申請により、それぞれ千葉県収用委員会に対し収用裁決申請をしたが、収用委員会が公団と所有者の任意協議による解決に期待したなど本件空港をめぐる諸般の事情により、今日に至るまで収用裁決がされないでいるのであって、公団が手続を怠っているわけではないから、収用裁決請求権の時効消滅なるものを論ずべき実質的基盤もないとしなければならない。

二除斥期間経過による買受権の不成立に伴う収用裁決請求権の失効の主張について

控訴人らは、公法上の権利につき、権利者が長期間権利を行使しない場合であって、かつ、特別の事情があるときは、右権利は失効するとの理論を前提として、公団が第二期工事区域内の土地について収用裁決申請をしたまま、収用委員会に対し何らの措置を講ずることなく漫然放置していたため、本件事業認定後二〇年を経過していながらいまだに収用裁決がなされず、このため、土地が事業の用に供されていないのにかかわらず、控訴人らは所有権としての買受権をも失うに至ったとして、公団の第二期工事区域にかかる収用裁決請求権は失効の原則により消滅し、千葉県収用委員会は収用裁決権限を喪失したと主張する。

しかしながら、先にもみたように、公団は、第二期工事区域について収用裁決の申請をしており、申請に対する裁決が行われないで今日に至っているのは前記のような諸般の事情によるものであり、公団がこの点について収用委員会に異議の申立てや不作為の違法確認を求める訴えを提起しなかったからといって、手続を怠ったものということはできない。

また、本件においては、事業認定の告示の日から既に二〇年を経過していることから、第二期工事区域の土地が今後収用され、かつ、空港の事業の用に供されないという事態が生じた場合でも、所有者が収用法一〇六条によって買受権を行使する余地はないと考えられる。しかし、収用法一〇六条の定める買受権は、公共のために土地を収用された者について、当該土地が事業の用に供されないこととなった場合に、旧所有者としての立場を考慮して法が特に与えたものと解されるのであり、同条の規定によって、買受権が成立しなければ収用してはならないことまでが定められているとは解されない。そして、第二期工事区域内の未収用者は、土地の所有権を失っておらず、現に耕作するなどして使用しているのであるし、また、本件事業認定区域のうち第一期工事区域については、既にその全部が空港用地として使用されており、第二期工事区域についても、任意買収により取得した土地については空港用地として使用すべく工事が進められていると認められる。

これらの点において、収用された土地が不用となった場合に生ずる買受権の問題を根拠にして、収用裁決請求権の失効を論ずる控訴人らの主張は採用することができない。

三事業認定告示後四年内に権利取得裁決がないことによる事業認定の失効の主張について

控訴人らの右主張は、控訴人らが当審において補足主張した点を考慮しても、採用することができない。その理由は、原審の説示(原判決三二三枚目表三行目から三二四枚目裏一行目まで)のとおりである。

なお、付言するに、控訴人らは、起業者が権利取得裁決の申立てをしたにもかかわらず、事業認定告示の日から四年以内に右裁決が行われないときは、もはや明渡裁決の申立てをする余地がなく、収用法二九条二項により事業認定が失効することとの対比において、起業者が権利取得裁決と明渡裁決とを同時に申立てた場合でも、事業認定告示の日から四年以内に権利取得裁決が行われないときは、事業認定の失効を認めるべきであると主張するが、右前者の場合においては、事業認定告示の日から四年の期間内に権利取得裁決のほかに明渡裁決の申立てをすることができたのにかかわらず、起業者がこれをしなかったことが事業認定失効の根拠となるのであって、既に権利取得裁決とともに明渡裁決の申立てがされている後者の場合を同列に論じることは、当を得ないものである。

第六結論

以上の次第で、原判決別紙目録(一)(二)記載の控訴人らの本件訴えは、いずれも不適法であるから却下すべきであり、その余の控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官山崎潮)

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